「自分の好きなこと」を挙げるなら、私は間違ひなくベスト5に「眠ること」を挙げると思ふ。とにかく一日七時間以上寝なければ、間違ひなく翌日の動作に支障をきたす。おまけに休日は半日ぶっとほしで寝て、さらにまだ寝足りないといふていたらく。
だけど、この睡眠が無駄だとは思ってゐない。
人間が睡眠を求めるのは、起きているときがあまりに脳へ負荷をかけ過ぎてゐるからであって、言ふなら脳の救難信号である。腕や足や胃や腸の救難信号と違って、脳自身の信号には灯台下暗しなのか、なかなか気づきにくい。また、気づいたとしても無理やり制禦してしまふ。それは当然のことだと思うが、毎日毎日それではいつか破綻してしまふだらう。
目が大切なのは分かる。肝臓や、心臓や血管が大切なのも分かる。なら、同じくらい脳、つまり、自分自身を大切にすることも大切なんぢゃないかなと思ふのだ。何事もプラスマイナスゼロが一番丁度良くできてゐるのだから、この眠たいときと働くときの切り替へが巧い人は得だなあと思ふ。
あと、少し次元の違ふ話かもしれないが、私は睡眠の中でも「二度寝」が特に好きだったりする。寝つきの悪い――普通で1時間ぐらい布団の中でおきてゐる――私にとって、すんなりと意識が沈む二度寝といふものは大変ありがたい。あの布団に溶けていくような感じは、他では絶対に味わうことのできない、至福の瞬間だ。
食の喜びは食慾に飢えている時が最も強い。睡眠の喜びであっても、睡眠慾に一番飢えているとき。つまり起きたての時がもっとも強力で、高潮で、病的といえる。
その強力な依存性は、もしかしたら、本能が命じる現実回帰へのささやかな抵抗なのかもしれない――意識が途切れる寸前にふとそんなことを思った時、おぼろげな憂鬱が尾を引くやうに私の心を満たすのである。