久幸繙文

災害発生時における情報伝達についての考察

まえがき

本記事では、大規模な災害――自然災害、人災問わず――が発生した場合において、私たちはどのような行動を取るべきなのかを、連絡という観点から最善の方法を摸索した。

但し、ここで挙げられた方法論は、所詮机上の空論であり、万一このような事態に直面した際に有効とは限らない。何故なら、「災害が起こった」時点で、日常的な一つ(あるいは複数)の「前提」が崩れているからである。

従って、ここではあくまで一つの「理想型」を示しながら、何故そうすべきなのかを同時に展開し、種々の応用をもって事態に対処できる知識の書き留めを目標とする。予測に基づいた記述も多く含まれるため、誤りがあれば指摘していただければ幸甚である。

災害発生時の状況

一口に「大規模災害」と言っても、筆者が体験した阪神・淡路大震災のような広域壊滅型の災害もあれば、JR福知山線脱線事故のような局所的な惨事、さらには2003年のニューヨーク大停電などの特殊な例もある。

しかし、何れの災害においても、「何が起こったのか?」「これからどうなるのか?」「○○は大丈夫か?」という現状認識に対する通信需要の絶対量が、平時と比べて桁違いに増大する点で共通している。一方、災害によっては電波塔やサーバコンピュータが破損し、通信を処理する側の許容量が平時より減ることもある[1]

こうなると、通信システムの破綻を防ぐため處理する情報量を制限せざるを得なくなる。災害時に電話が繋がりにくくなるのはこのためである(災害型輻輳と言う) 繋がりにくくなるとリダイヤルされる回数が増えるため、ひとたび輻輳が生じると通信状況は加速度的に悪化する[2]

従って、災害時は基本的に不要不急の通信を行わない繋がりにくい時はリダイヤルせずしばらく待つというのが大原則となる。あなたの『かけない』が被災地の緊急な通話を救います。[3]

各通信方法の特性

携帯電話・PHS

携帯電話・PHSは日常生活において最も身近な通信手段である。そのため、時間帯にもよるが[4]、携帯電話の輻輳は真っ先に発生すると考えられる。

携帯電話とPHSではそれぞれ電波の処理方法が異なり、携帯電話は高出力少数の電波塔で、PHSは低出力大量の電波塔で通信をカバーしている。両者の特性は一長一短だが、少なくとも2006年時点でPHS加入者は減少の一途をたどっているため、PHSの方がかかりやすいと考えられる[5]

一般固定電話

一般固定電話も、携帯と同じく身近な通信手段であるため、輻輳を起こしやすいと考えられる。

固定電話の場合、通話に必要な電力は電話回線から供給されるため停電時でも使用できる。但し、近年普及している多機能電話やISDNなど、別途電源が必要な場合は通話できない

IP電話

IP電話は通常の電話回線ではなく、インターネット用の通信回線を使用する。そのため回線許容量が大きく、また一般電話と比べて普及率も低いことから、災害時でも輻輳を起こしにくい通信手段と考えられる。

但し、停電時には使用できない。そのため地震のようなライフラインを寸断する広域災害に対して脆弱である。またこれまでの事故例から、一度障碍が起こると復旧に時間がかかるという問題も指摘されている。

その他、通話先が一般電話であればそちらの輻輳に捲き込まれる点も留意が必要である。先の宮城県沖地震において、IP電話と固定電話の呼損率(電話をかけて繋がらなかった確率)は殆ど同じという調査結果が出ている[6]

公衆電話

公衆電話からの通話は優先電話に区分されている。そのため、通信規制下においても比較的繋がりやすくなっている。災害の規模が大きい時はNTTの判断で避難所へ増設・無料化することもある[7]

但し、規制がかけられていない、あるいはかけても捌ききれず輻輳状態に陥ると、一般電話と同様にかかりにくくなる。災害直後からすぐに優先されるわけではない点にも留意すべき。

通話には10円玉、100円玉ないしテレホンカードが必要となるが、硬貨入れが満杯になるとテレホンカードしか使用できなくなる。逆に停電時はテレホンカードは使用出来ない[8]

携帯電話の普及に伴い公衆電話は減少の一途をたどっている[9]ため、普段から目立たない公衆電話の位置を把握しておくことが望ましい。

携帯メール

意外にも、携帯電話のメールは通話よりも比較的通信が成功しやすいことが知られている[10]

これは、メールの方が通話よりも通信回線に対する負荷が小さいことに起因している。但し通信規制がかかれば通話同様繋がりにくくなるため、災害発生直後に安否を短く伝えるためであれば試みる価値があると思われる。

ナローバンドインターネット通信

ダイアルアップやPHSは一般回線を使用するため、一般回線の輻輳に捲き込まれやすく、災害時には期待できない。

ブロードバンドインターネット通信

ADSLや光ファイバーを初めとしたブロードバンド通信は、一般回線とは別の独自回線を使用するため、一般回線の輻輳に捲き込まれず、災害時でも比較的容易に通信出来る[11]

但し、停電や故障に弱いという欠点は共通しており、これらの問題点の解決が急がれている。

張り紙

原始的だが、紙とペンさえあれば簡単に行え、確実に痕跡を残すことが出来るため、近距離の人に対しては非常に有効な方法である。筆者が阪神淡路大震災に被災した時、そこかしこで張り紙が貼られていたのを今でも覚えている。

学校の掲示板や家の玄関を利用し、「自分と自分以外の知りうる限りの安否」「連絡先」は最低限書くようにする。

伝言

情報錯綜の元となるため、基本的に推奨できない。大変なのはどこの家も同じ。

連絡を送る災の注意点

長期にわたって通信が寸断される場合、メールやFAXを送りすぎると、相手側のメールボックスや用紙が足りなくなることがある。被災地外からの連絡は、極力災害伝言ダイアルや安否情報(後述)などを利用されたい。

また安否情報が錯綜するため、一度避難拠点を決めたらなるべくそこから動くべきではない。やむを得ず移動するときは、張り紙などで確実に痕跡を残すようにしたい。

安否情報サービス

大規模な災害の場合、TVやラジオなどで安否情報を確認できる放送を行う事がある。通信回線の負担を減らすためにも、これらのサービスを積極的に利用されたい。

TVは一度に大量の安否情報を取り扱えるが、被災地では停電や停波のためにTVが使えない場合も考えられる。一方、ラジオは電波が遠くまで届きかつ電池で動作するため、比較的受信は容易となっている(カーラジオもほとんどの車に搭載されている)

従って、テレビが見られない環境にある被災者へ安否を尋ねたい時はラジオの方が有利で、逆に、テレビが情報取得の中心となる遠方の人へ安否を報告したい時はテレビの方が有利であると思われる。両方に登録出来るのであればなお良い。

災害伝言ダイヤル

災害伝言ダイヤルとは、NTTが提供する伝言システムの一つである[12]

  • 一般電話・公衆電話とも(一部携帯電話も)利用可能。
  • 災害発生により通話回数が増加し、対応しきれないと判断された場合に提供開始。
  • 録音時間は1伝言あたり30秒以内・保存時間は48時間・1電話番号あたり1〜10伝言まで(状況により変化)
  • 利用料は無料(ただし通話料は必要
  • 暗証番号を指定することによって特定の人のみに伝言を伝えることも可能
  • 番号は「171」(忘れてイナイ? 災害伝言ダイヤル)[13]
  • 災害発生初期では被災地からの伝言登録が優先される(再生は可能)

その他参考

  • 輻輳の意味とその性質(http://www.interq.or.jp/blue/rhf333/OVER_L.htm)

久樹 輝幸