謎多き日

1

元町から和田岬へ帰る途中の話である。その日私は、たかが隣駅へ行くために一々JRに乗り、そこからさらに地下鉄に乗り換へるのが億劫だったので、定期代以外の費用はかかるものの、旧居留地・大丸前から海岸線を使ふことにした。

で、和田岬駅での改札口。かういふ場合、大丸前で買ったハーバーランド駅までの切符と、ハーバーランド駅からの定期を重ねて改札機に入れることで、うまく乗り越し処理を済ませてくれてるやうになってゐる。

ところが、何を間違へたのか、自動改札機は大丸からの切符だけを飲み込み、定期を「入場記録がない」などといって突き返してきたのである。その入場証拠はあんたが飲み込んだんぢゃないか。返しやがれ、ばか――と毒づいてみたものの、入場記録がなければどうしようもないので、途方に暮れつつ、駅員さんに泣きつくしかなかった。

とは言っても、そんな間抜けた話を駅員さんが信じるとも思へず、村上 春樹のやうにあらぬ疑ひをかけられるか、或いは無表情に通れとだけ言はれるか、どちらにせよ後味の悪い思ひをするのは間違ひないと暗い気持ちだった。

しかし駅員は慌てず騒がず、事情だけ聞くとすぐに手元の機械で切符の受付記録を参照して、なんと久樹の訴えの正当性を簡単に証明してしまったのである。

この二つが奇蹟的に揃ってくれたおかげで、久樹は嫌な思ひどころか駅の隠された機能まで発見してしまった。

運がよいのか悪いのか、どうにも今日は謎多き日である。